貴重書紹介

瀧川文庫

兵庫県立大学神戸商科学術情報館では、『瀧川文庫』と称される二つの特別文庫を所蔵しています。一つは、1989年に設置された『イギリス古典思想文庫』であり、「ペティ=ダヴナント著作コレクション」と「イギリス社会思想コレクション」から構成されます。もう一つは、1991年に設置された『サー・ジョン・ヒックス旧蔵書および文書コレクション』です。いずれも、本学の前身校である神戸商科大学を卒業された瀧川博司氏によって寄贈されたものです。『瀧川文庫』はその設置以来、本学における社会科学の教育・研究活動の基盤をなしてきました。さらに、今後は関連分野における国際的な学術研究の土台として、国内外の研究者に広く活用していただくことを期待しています。

『瀧川文庫』の訪問や調査・研究を希望される場合は事前予約が必要です。兵庫県立大学神戸商科学術情報館までお問い合わせください。
 貴重書に関する連絡先
  兵庫県立大学神戸商科学術情報館
  メールアドレス

『イギリス古典思想文庫』
The Library of the History of English Thought

「ペティ=ダヴナント著作コレクション」
A Collection of Rare Books by Sir William Petty and Charles Davenant


ウィリアム・ペティ(William Petty, 1623-1687)は、経済学ならびに統計学の始祖として、またアイルランドにおいて土地の測量(ダウンサーベイ)を行った人物として知られている。ペティと同時代人であり、人口統計学を確立した人物がジョン・グラント(John Graunt, 1620-1674)である。そして、ペティの考案した政治算術という手法を、財政分析や貿易分析に適用した人物がチャールズ・ダヴナント(Charles Davenant, 1656-1714)である。当コレクションは、ペティ、グラント、ダヴナントの主要著作や関連する文献をはじめとして、ペティが関わったとされる土地裁判の一次資料やダウンサーベイの地図(復刻版)等も所蔵する(65タイトル、全68冊)。

  • 代表的な所蔵資料
『租税貢納論』
A Treatise of Taxes and Contributions

by William Petty
『死亡表に関する自然的および政治的諸観察』
Natural and Political Observations Mentioned in a Following Index, and Made upon the Bills of Mortality

by John Graunt
『戦費調達論』
Essays upon Ways and Means of Supplying the War

by Charles Davenant
ウィリアム・ペティは同書において、公平なかたちで租税を徴収するために、富の源泉を「土地」と「労働」に求めることができると規定した。また、土地と労働が等価関係にあることを示すことで、他のさまざまな商品の価値を労働によって測定することも提案した。こうしたペティの「価値」に関する考え方は「労働価値説」と呼ばれ、アダム・スミスやカール・マルクスらの経済学研究にも大きな影響を及ぼしたとされている。
ジョン・グラントは同書において、統計学の歴史において初めて、人間の生死と人口の数量的な関係を動態的に把握することを試みたとされている。彼は統計資料としての死亡表を収集し、それらを注意深く検討することから人口変動に関する諸事実を捉えた。例えば、彼はペストが流行した時期におけるロンドンの人口を把握するために、洗礼数と死亡者数を用いた推測を行った。同書には、グラントの主張の根拠となる表や個票も掲載されている。
同書は、財政政策の重要性を広く知らしめたチャールズ・ダヴナントの著作である。当時、対仏戦争が長期化しており、ウィッグ政府は戦費を国債によって賄おうとした。ダヴナントは、その戦費の調達方法がイングランドの貿易収支に悪影響を及ぼしていることを分析した。彼はその分析を踏まえて、関税の引き下げや消費税によって戦費調達する等の方策を講じることによって、戦時下でも国家財政を健全化させうることを指摘した。
書誌情報:
1662年版
(NCID: BB28428606)
1667年版
(NCID: BB28428843)
1679年版
(NCID: BB28430095)
書誌情報:
第3版(1665年)
(NCID: BB28906388)
第5版(1676年)
(NCID: BB28906694)
書誌情報:
1695年版
(NCID: BB28910352)
『租税貢納論』
A Treatise of Taxes and Contributions

by William Petty
ウィリアム・ペティは同書において、公平なかたちで租税を徴収するために、富の源泉を「土地」と「労働」に求めることができると規定した。また、土地と労働が等価関係にあることを示すことで、他のさまざまな商品の価値を労働によって測定することも提案した。こうしたペティの「価値」に関する考え方は「労働価値説」と呼ばれ、アダム・スミスやカール・マルクスらの経済学研究にも大きな影響を及ぼしたとされている。
書誌情報:
1662年版 (NCID: BB28428606)
1667年版 (NCID: BB28428843)
1679年版 (NCID: BB28430095)
『死亡表に関する自然的および政治的諸観察』
Natural and Political Observations Mentioned in a Following Index, and Made upon the Bills of Mortality

by John Graunt
ジョン・グラントは同書において、統計学の歴史において初めて、人間の生死と人口の数量的な関係を動態的に把握することを試みたとされている。彼は統計資料としての死亡表を収集し、それらを注意深く検討することから人口変動に関する諸事実を捉えた。例えば、彼はペストが流行した時期におけるロンドンの人口を把握するために、洗礼数と死亡者数を用いた推測を行った。同書には、グラントの主張の根拠となる表や個票も掲載されている。
書誌情報:
第3版(1665年) (NCID: BB28906388)
第5版(1676年) (NCID: BB28906694)
『戦費調達論』
Essays upon Ways and Means of Supplying the War

by Charles Davenant
同書は、財政政策の重要性を広く知らしめたチャールズ・ダヴナントの著作である。当時、対仏戦争が長期化しており、ウィッグ政府は戦費を国債によって賄おうとした。ダヴナントは、その戦費の調達方法がイングランドの貿易収支に悪影響を及ぼしていることを分析した。彼はその分析を踏まえて、関税の引き下げや消費税によって戦費調達する等の方策を講じることによって、戦時下でも国家財政を健全化させうることを指摘した。
書誌情報:
1695年版 (NCID: BB28910352)

「イギリス社会思想コレクション」
A Collection of Rare Books for the History of English Thought


当コレクションは、16世紀から19世紀にかけてスコットランドやイングランドで出版された社会思想ならびに経済思想に関する書籍から構成される。そのなかには、エラスムス(Desiderius Erasmus, 1466-1536)の『痴愚神礼賛』(英訳初版、1549年)、トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes, 1588-1679)の『リヴァイアサン』(初版一刷、1651年)、ジョサイア・タッカー(Josiah Tucker, 1712-1799)の『メソジスト派の教義に関する歴史』(初版、1742年)、アダム・スミス(Adam Smith, 1723-1790)の『国富論』(初版、1776年)等、18世紀までに出版された稀覯本が数多く含まれている(224タイトル、全327冊)。

  • 代表的な所蔵資料
『フランシス・ベーコン全集』
The Works of Francis Bacon(4 volumes)
『リヴァイアサン』
Leviathan, or, The matter, forme, & power of a common-wealth ecclesiasticall and civill

by Thomas Hobbes
『道徳と立法の諸原理序説』
An introduction to the principles of morals and legislation

by Jeremy Bentham
同書は、フランシス・ベーコンの全集(4巻本)である。人間の偏見や錯覚を扱うイドラ論等を展開した『ノヴム・オルガヌム』(1620年)は第1巻に、学問の系統樹を表した『学問の進歩』(1605年)が第2巻に収められている。第3巻や第4巻には草稿や書簡類が収録されている。ベーコンは、自然の観察を通じて個々の事実を収集し、一般命題を導出する「帰納法」を確立した。「知は力なり」という名言に示されているように、権威よりも観察や実験を通じて得られた知識を重視した。こうしてイギリス経験論の礎が築かれたのである。
ホッブズは同書において、各人は自らの生命を維持するためにその能力を全力で用いる権利があることを指摘した。しかし、いわゆる「万人の万人に対する闘争状態」を避けるために,人間には理性が備わっており、自然法を尊重し社会契約を結ぶことによって主権を定めているとした。同書は「権利章典」の起草に関わったジョン・ロックの社会経済思想に影響を及ぼしたことでも知られている。
同書において、ベンサムは人間を快楽と苦痛に支配される存在として把握し、人間が快楽を追求すると同時に苦痛を避けるという「功利性の原理」をめぐり議論を展開した。法学者であった彼は「最大多数の最大幸福」を促進する快楽や安全を立法の目的に位置づけ、刑罰の規定について議論するために快苦の種類や様々な感受性等を列挙した。ベンサムによる政治科学と道徳科学に関する議論は、J.S.ミルやヘンリー・シジウィックに継承された。
書誌情報:
1740年版
(NCID: BB28521623)
書誌情報:
初版一刷(1651年)
(NCID: BB28702592)
書誌情報:
初版(1789年)
(NCID: BB2856768X)
『フランシス・ベーコン全集』
The Works of Francis Bacon(4 volumes)
同書は、フランシス・ベーコンの全集(4巻本)である。人間の偏見や錯覚を扱うイドラ論等を展開した『ノヴム・オルガヌム』(1620年)は第1巻に、学問の系統樹を表した『学問の進歩』(1605年)が第2巻に収められている。第3巻や第4巻には草稿や書簡類が収録されている。ベーコンは、自然の観察を通じて個々の事実を収集し、一般命題を導出する「帰納法」を確立した。「知は力なり」という名言に示されているように、権威よりも観察や実験を通じて得られた知識を重視した。こうしてイギリス経験論の礎が築かれたのである。
書誌情報:
1740年版 (NCID: BB28521623)
『リヴァイアサン』
Leviathan, or, The matter, forme, & power of a common-wealth ecclesiasticall and civill

by Thomas Hobbes
ホッブズは同書において、各人は自らの生命を維持するためにその能力を全力で用いる権利があることを指摘した。しかし、いわゆる「万人の万人に対する闘争状態」を避けるために,人間には理性が備わっており、自然法を尊重し社会契約を結ぶことによって主権を定めているとした。同書は「権利章典」の起草に関わったジョン・ロックの社会経済思想に影響を及ぼしたことでも知られている。
書誌情報:
初版一刷(1651年) (NCID: BB28702592)
『道徳と立法の諸原理序説』
An introduction to the principles of morals and legislation

by Jeremy Bentham
同書において、ベンサムは人間を快楽と苦痛に支配される存在として把握し、人間が快楽を追求すると同時に苦痛を避けるという「功利性の原理」をめぐり議論を展開した。法学者であった彼は「最大多数の最大幸福」を促進する快楽や安全を立法の目的に位置づけ、刑罰の規定について議論するために快苦の種類や様々な感受性等を列挙した。ベンサムによる政治科学と道徳科学に関する議論は、J.S.ミルやヘンリー・シジウィックに継承された。
書誌情報:
初版(1789年) (NCID: BB2856768X)

『サー・ジョン・ヒックス旧蔵書および文書コレクション』
The Library & Papers of Sir John Richard Hicks

当コレクション(以下、ヒックス文庫)は、オックスフォード大学ドラモンド講座経済学教授を務め、1972年にアルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞(通称、ノーベル経済学賞)を受賞したジョン・リチャード・ヒックス(John Richard Hicks, 1904-1989)と、オックスフォード大学の財政学者であったアーシュラ・ヒックス夫人(Ursula Kathleen Webb Hicks, 1896-1985)の旧蔵書(約1250冊の書籍、約340冊の雑誌)、直筆草稿、書簡類を所蔵する(約2,400タイトル)。

J.R.ヒックスは、J.M.ケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』(1936年)の主要な議論をIS-LM分析として図式化したことで広く知られている。ヒックスは、主著『価値と資本』(1939年)において、マーシャルやワルラスらの経済学を基礎にして一般均衡理論を洗練させるだけでなく、その後半では動学化も試みており、数理経済学の基礎を構築した。彼はまた「新厚生経済学」と呼ばれる経済理論の確立にも貢献し、さらに後年には『経済史の理論』(1969年)を著し、経済の歴史的発展に関する独自の展開を試みた。ヒックス文庫には、このようなJ.R.ヒックスによる経済学の様々な分野に対する貢献を跡づけることを可能にする一次資料や書簡類が所蔵されている。

■ 寄贈者のご紹介
  • 瀧川博司(TAKIKAWA Hiroshi)
    神戸商科大学(学6回)卒業、兵庫トヨタ自動車株式会社相談役